HOME > みちのく春秋 > 発刊の理念

発刊の理念

覚悟を決める時 ☆「みちのく春秋」発刊の理念☆

 いま、2011年7月。
 毎年春3月、皇居を望む千鳥ヶ淵の桜の木々とその足元に群生する菜の花の鮮やかなコントラスト。初夏5月、皇居のお濠の芽柳の木々は芽吹き始めゆったりと涼風になびく。
 私はかつて40年以上過した東京の、象徴的な風景に思いだしつつ、静かに3月11日の東日本大震災の記録写真集を手に取り、思索する。
 誌面には、巨大な自然がちっぽけな人間の存在を自覚させるように、みちのくの人々の苦悩に満ちた姿を克明に写し出されている。
 そこには一瞬にして最愛の妻と死別し慟哭する夫、ようとして行方の判らない両親を浜辺で必死に探す子供、住む家や仕事場を失った多くの失意の人々、の姿がある。慣れ親しんだ村や町や学校が消え、もはや茶飲み友達は隣に見当たらない。非日常に突き落とされ、茫然自失し、涙を忘れた被災者の顔、顔、顔。
 誰もが言葉を失い、私たちの命を確かなものにしている絶対的な自然の前にひざまずき、ただただ祈ることしかできない。「もうそのくらいで勘弁して下さい」と。私たちは改めて、この自然を畏敬し、大切に守りながら生きて行かなければならない宿命に気づく。
 さらに、東京電力福島原発の未曾有の大事故。
 この事故によりはからずも明らかになった「中央とみちのく」の関係。
 私たちはこれまでのみちのくの歴史を改めて見直し、今回の事故を人災と受け止め、中央および東京電力側のいかなる弁明も欺瞞の繰り返しと見抜く。だからこそ、いままでの政治の在り方や企業成長神話に「NO」と決別すべきと考える。これは命と生活を守るためのギリギリの闘いであり、今は誰もが覚悟を決める時にあると考える。
覚悟、それは自然の恩恵に深く感謝し、同時にその脅威に常に備えを怠らないこと。
 これまでの「お金がすべて」、右肩上がりの経済成長が総てという価値観を改め、みちのく・郷土を大切にする生活に転換すること。そしてなにが真実かを見抜き、 真実のためそれぞれの持ち場で行動することではないか。
 みちのくは、特に岩手・宮城・福島三県に集中した大震災と東京電力福島原発事故という、未曾有の直接の履災者・被害者であるのだから、これまで流布している「我慢強く温和だ」という言葉の詐術から抜け出さなければならない。
 簡単には進まない現実の壁も意識しつつ、臆することなく何十年という長いスパンでの闘いを開始すべきだ。また腐敗堕落した既成の政党その他に片寄ることなく、ゆるぎない心で確実な一歩を進めていくべきだ。
 この小冊子は、まことに微力な存在かもしれない。しかし文学の末席にあるものとして、何かをせざるにいられないという、突き上げる熱情のおもむくままに、みちのくを始め全国の仲間の協力を得て、発刊となった。
「真実・改革・微笑」を合言葉に、何十年後にこの仕事を引き継いだ若い人たちが、人知れず微笑まんことを念じつつ、悲しみの記録写真集を静かに閉じる。

2011年7月
本の館  亜礼母禮
『みちのく春秋』 発行人  井上 康


 

ページトップに戻る